イングリッシュエールの種類(2009/4/26更新)


▲一口にエールビールといっても、
多種類に分けられる


■日本人は、100分の1のビールしか知らない!■

 まず「タイプ」と「スタイル」という言葉について。

タイプ・・・ビールの醸造課程における分類で、ラガータイプとエールタイプに大別される

スタイル・・・ビールをその原料、味などから細分化した分類で、日々新しいビールが出来たり、人によって解釈が違うので、一概に「現在世界にはOO種のスタイルのビールがある」とは言いきれない。米国ブルーワーズ協会のビア・スタイル・ガイドラインおよび日本地ビール協会の分類によると、100種類以上だ(該当ホームページ
 ビールは、大別するとラガータイプエールタイプに分けられる。日ごろわれわれが飲んでいるのはもちろんラガータイプで、その中でも詳しく言えばピルスナースタイルだ。日本では「一番絞り」だの「黒ラベル」だの「スーパードライ」だの各社が血道を上げて、独自のブランドを出しているが、それらは、ビールのスタイルで言えばほとんどが、このピルスナースタイルに属するもの。つまり土俵が100個あるうちの一つで、相撲を取っているだけなのだ。日本の紀行や料理に合い、流通にも便利という理由でピルスナータイプだけが幅を利かせている日本のビール文化の、なんと貧しいことか!

 世界には、それこそ大海のような、他のスタイルのビールがある。

 有名なのはドイツのヴァイスビアやヴァイツェン、ケルシュ、アルト、ベルギーのアビイエール、トラピスト、ベルジャンホワイト、ランビックなどなどだ。
 それらの魅力は、そちらの愛好者に解説をゆずるとして、ここでは、イギリスで飲まれているエールタイプのビールについて述べていこう。
■英国で飲まれているエールビール■

 まず、エールタイプとラガータイプの違いは何か。この2種は、醸造方法が違う。ラガーが低い温度で酵母が発酵する(下面発酵)のに対し、エールは高い温度で発酵する(上面発酵)ので、ホップやモルトの味わいが残りやすい。
 世界的に見ると、もともとエールの醸造方法の方が主流だったのだが、大量生産に向き、保存がきくラガータイプが後から生まれた。(「ラガー」とはドイツ語で「貯蔵」の意味)これが今や世界の主流を占めるビールとなっていて、その余波が日本にも来て、日本では、生まれてから死ぬまでラガータイプしか口にしない人が、少なくとも一昔前まではほとんどだったというわけだ。
現在、イギリスで飲めるエールビールのスタイルをあげてみよう。
発祥 フレーバー アルコール度数 その他
ペールエール/ビター バートン・オン・トレント ブロンズ ホップ 3.5〜5.5% エールの代表。硬水という現地の水質が大きく関係。インド向けにインディアンペールエールも作られた。ビターとは、ドラフト(樽入り)のペールエールを指し、よりホップを利かせている
マイルドエール ウルバーハンプトン ダーク・ブラウン 軽いホップ 3%前後 労働者のビールというイメージ。ドラフトが普通。
イングリッシュ・ブラウン・エール ニューキャッスル 赤みがかかったブラウン 甘味を持つ 3〜3.5% 上のマイルドエールのボトル入りのもの。
オールドエール ダークな色合い 甘い、
モルト
4〜6%
ポーター ロンドン 銅黒色 ホップの苦味 5〜6.5% 最近リバイバルしてきた
スタウト ダブリン ダーク 苦味が強い 4.2%
(国によってもっと高いことも)
ポーターの発展形。麦芽を焦がす(ロースト)ので、独特の苦味ができる。サブスタイルとしてスィートスタウト、インペリアルスタウトがある。
バーレイワイン ダーク モルティ 8.5〜12% 6ヶ月に渡って貯蔵する長期熟成ビール。ワインのようなアロマを持つものも
スコティッシュ・エール スコットランド 茶褐色 モルティ 2,8〜10% スコッチエールともいい、ストロングエールの代名詞。
アイリッシュ・エール アイルランド 赤褐色 モルティ 4〜5% ローストした大麦を少量混ぜていることも
<参考>ビアテイスターのテキスト(日本地ビール協会)

 現在、イギリスで飲めるエールビールのスタイルの二大潮流は、「ペール・エールPale Ale」と「ブラウン・エールBrown Ale」だ。ペール・エールは、17世紀にイギリスの中央部バートン・オン・トレントBurton on Trentで生まれた。なぜここだったのかというと、ホップの原産地であるウースター州Worcestershireに近かったことと、トレント川の水が硫酸カルシウムや硫酸マグネシウムなどを多く含む硬水だったからだ。ホップをよく利かせてあり、フレーバーが強いほか、いくぶん酸味や苦味,硫黄香も感じる。「ペール」と言っても、色が薄いわけではなく、次のブラウンエールなどに比較したら薄い、ということでこの名がついている。実際にはキャラメルのような茶色や胴色だ。アルコール度数は
4.5%〜5.5%と幅がある。
 これを、次で述べるカスク・コンデションの状態にして飲むのがビターBitterというスタイルだ。
 イギリス人がビターと言うと、このスタイルをさしていることもあれば、エールビール全般を指すこともある。それほどエールの中でも代表的なスタイルということだ。
 もう一つの「ブラウン・エール」は、北部と南部では違うビールを指す。北部ではローストした麦芽の香ばしい風味が特徴で、ホップの香りと苦味が弱く、アルコール度数は4.0〜5.5%だ。20世紀になって、当時は造船の街だったニューキャッスルNewCastle upon Tyneで有名となり、スタイルとして定着した。このビールの特徴は、ペール・エールよりも濃い、やや赤みがかかった茶色と、独特のほんのりした甘味である。ペール・エールよりはホップの使用量が少なく、変わりにモルトでフレーバーを出している。
 一方、南部のブラウン・エールと言ったら、麦芽の甘味がさらに強く、北部のと同じくホップの香りと苦味が弱いのが特徴で、アルコール度数は、3.2〜
4%と北部よりも低い。これは工業都市、ウルバーハンプトンWolverhampton(Birminghamの北)で労働者に好まれた。口当たりがよくてが軽くて飲みやすかったので、仕事帰りに一杯ひっかけるのにちょうどよかったからだ。この南部のブラウンエールのカスクコンディションを、マイルド・エールと呼んでいる。
 これらのビールは日本でも飲める。ボトル入りの「バス・ペール・エール」や「ニュー・キャッスル・ブラウン・エール」が手に入る。だが、理由は後で述べるが、ボトルに入っている時点で、本場のパブでの味と決定的に異なっている。
日本で買えるボトル入りの主なイングリッシュエール
Bass Pale ale(5,0%)
イギリスを代表するペールエール
New Castle Brown Ale(4.5%)
ほんのりとした甘味が特徴
Old Peculer(5,6%)
オールドエールの一種
McEwan's Scotch Ale(4,5%)スコティッシュエールの一種

※イギリスのビールには3〜4%代のアルコール度数が少なくないのは、税金がアルコール度数によって決まっているから。輸出用は海外の嗜好に合わせて度数を上げることもあるが、国内では、度数が低いビールが多く見られる。(『パブとビールのイギリス』193ページより)


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