GBBF訪問記

 

 うたい文句は「世界一大きなパブ」である。これはあながちウソではない。150もの大小のビール会社からの300種類以上のビール、アメリカ、ドイツ、オランダ、ベルギー、チェコなどからの200もの外国ビールが一堂に会するイベント。しかも国内ビールにあってはたとえば「ペール・エール部門」「ビター・エール部門」などビールのスタイルによって予選があり、それに通過したビールでないとイベントに参加できない。金さえ出せばどこのビール会社でも参加できるわけではないのだ。しかも毎年、そういったスタイル別のベスト・ビールが選ばれ、さらに全部のチャンピオンビールが選ばれる。その後のその銘柄の売り上げにも大きく関わってくるから、各社必死だ。

 1977年から続いているこのイベント、今回が23回目。

 なんてったって、1年越しの念願だ。今日は、一日中飲んだくれてやる。そんなしょうもない決心を胸に秘め、ロンドン・オリンピアの駅を下りると、すぐにそのイベントホールはあった。8月1日、5日間のイベントの初日だ。今日は一般の人は夕方5時からの入場だが、初日は、1時からプレス向けのプレビュー、3時から業界人向けのプレビューがあり、しかも3時頃に今年のチャンピオンビールの表彰式があるという。イアンの勧めどおり、初日の1時から来たというわけだ。

 プレスオフィスにイアンはいなかったが、先日セントオーバンスの本部で会ったCAMRAの職員がいて、「この会場のどこかにいると思うんだけど」と言う。そして、「チャンピオン・ビールの表彰は何時頃になる?」と聞くと、「さあ、知らないわ。30分後かもしれないし、3時間後かもしれないし」このあたりはさすがイギリス人、横並びの情報力が弱い。本部職員でさえ、タイムテーブルを把握していない。こういったことはイギリスでは、決してめずらしいことではないので、僕も別に驚かない。

 しかたなく、とりあえず会場を見渡すことにした。会場は体育館二つ分くらいの天井の高いホールで、二つの部分に分かれ、ひとつは各ビール会社のブース(っていうより、カウンター)が並んでいて、もうひとつには、カウンターのほか、ライブ演奏用のステージがある。日本のビッグサイトあたりのイベントと明らかに違うところは、「商談用」のスペースがないことと、人々がグラス片手に赤ら顔をしている点だ。

 プレスだけの時間帯にもかかわらず、会場はもう100人以上の人が来ていて、グラス片手に談笑をしている。「タイムズ」あたりだと思うような、スーツ姿のメジャー誌の記者も見受けられた。

 

 僕はイアンを探すのをあきらめ、グラスを買い、各ブースを物色しはじめる。ちなみにグラスは返却すれば返金される。パイントグラスとハーフパイントがあり、ハーフを持っている人も多いし、パイントを持っていても、ハーフしかついでもらわない人もいた。またテイスティングを念入りにしてから、やっと買う人もいて、みなこだわりのある人たちだな、という感じだ。

 僕は、各ビール会社のいちばん弱いエールを選んで、飲んでいった。それぞれ、色、モルトやホップの効かせ具合が微妙に違う。だが、「抜群においしい」と感じたわけではない。ビールによってコンディションのよしあしに差があり、やはり、地ビールはその地で味わいたいものだと、先日飲んだキンバリーエール(ブリュワリー訪問記の項参照)のことを思い出していた。

 そんなこんなで2時間も過ごしていると、ひょいとイアンと出くわした。再会を祝して乾杯し、このイベントのことなどを聞いた。会場を一緒に歩き周りながら話している間中、イアンはひっきりなしに知り合いに挨拶されていた。やはりPRマネージャーだけのことはある。

「じゃ、楽しんでいってくれ」

 イアンと別れたとたん、ステージ上で、今年のチャンピオン・ビアの表彰があったらしく、すでに人だかりができていたので、残念ながらステージ付近に近づけなかった。

 すでに3時は過ぎ、「業者」の札を下げた人も見受けられるようになった。僕はパブの経営者やビール会社の役員など、いろいろな人と言葉をかわし、今のパブの現状を聞いた。どこのパブもどこの会社も、戦略的にさまざまな工夫をこらし、生き残りに必死なのだと感じる。

 再びイアンと出くわし、さまざまな人を紹介してもらう。あまりにも多岐にわたるので、とても列挙することができないが、特筆すべきはCAMRA発行の会員氏の編集長、テッド・ブランニング氏だ。でっぷり太ったビール好きのおっさんという感じだった。彼はパブガイドブックやビールについてなど、実に多くの著作があり、僕もそれらの何冊かを持っている。今回、会報での「パブ意識調査」への協力を依頼すると、イアンからの下話がすでにあったせいか、快く受け入れてくれた。

 もう一人は、マイケル・ジャクソン氏だ。といっても歌手の方ではなく、ビールやウィスキー関係の著作が多く、日本語でも何冊かの翻訳がある、世界的に有名なビール評論家だ。彼は日本地ビール協会の名誉会員でもあることもあり、僕がパブに興味を持っていることに好意を示してくれた。60才くらいのひげを生やした人で、眼鏡の奥からの深い視線を、長く直視することはできなかった。まちがいなく「ただものではないオーラ」を発していた。

 その後、再び一人で会場を回る。ハンドポンプやジョッキなどのパブ関係の調度品やパブ関係の本やブリュワリーのノベルティの販売、手づくりビール体験コーナー、スキットルなどの各種パブゲームコーナー、ホットドッグなどのフード、ライブ演奏など、あるにはあったが、正直言って数時間もいると一人では飽きてしまう。期間中には、各種ライブ演奏が組まれ、クイズナイトもあるらしいが、一人でずっといられる場所ではない。

 僕はノーリッジから出てきたというパブの若いマネージャー・ジェッドと知り合い、行動をともにしていた。

 5時を過ぎて、一般の人がどっと入ってくる頃には、僕ももう10種類以上ものビールを飲んでいる。かなりいい気分だったが、こんなチャンスは滅多にないと、テーブルでくつろいでいる人々に「意識調査」のアンケートを頼んで回る。みなビールやパブに関心があるせいか、快く協力してくれた。CAMRAの支部の役員やパブ関係者なども多く、僕のように一日中座り込む人も多いみたいだ。ま、このためにわざわざ地方から出てきたのだから、当然といえば当然かもしれない。

 夜8時を過ぎ、クローズまであと2時間、という時に、日本人に声をかけられた。彼女はなんとドイツのブリュワリーのブースで働いていて、去年に続いて2度目だという。現在ミュンヘンで勉強中とのこと。お互い、レアな場所で会えた嬉しさを分かち合った。

 たしかに、多少の日本人を見かけた。スーツ姿の駐在員たちだ。だが、このイベントは、在英の日本人たちには知名度がまだまだ低い。イギリスビール、そして世界のビールの奥深さを知るためにも、ぜひ足を運んでみてほしいと思う。

 イアンによるとこの日におとづれた客は4万3000人弱。13万パイントものビールが人々の胃に入り、トイレに流された。来年もオリンピアで開催するが、将来的には会場を変えるかもしれないとのこと。

 

 

グレート・ブリティッシュ・ビア・フェスティバル(通称GBBF)DATA

期間:7月31日(火)〜8月4日(土) *2001年

時間:12:00〜22:30

入場料:5ポンド

*時間、入場料はその日によって異なるので要確認

Box Office 0870-904-0300

http://www.gbbf.org.uk

 

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