はじめに
エールビール、エールビール…
飛行機に乗り込み、シートベルトを締めたとき、僕の喉はすでにそれを欲していた。あと12時間の辛抱だ。そう言い聞かせて、静かに目を閉じ、この2年間のことに思いをはせる。
96年4月からの3年間のイギリス駐在中、初めてエールビールを飲み、そのとりこになった。あの独特の香りをぬるい温度でぐびぐびやってやりながら、パブで友と語り合い、新しい出会いをし、時には一人で瞑想した日々。
帰国して、同じ味を求めてブリテッシュパブ、アイリッシュパブと名のつくところは可能な限り回った。確かに、ギネスやアイリッシュエール、ボトルのエールビールは飲めた。でも何かが違う。
パブという独特の気の置けない空間、あの喉が乾きやすい湿度、そしておなじようにエールを愛する友…そういった外的な環境もそうだが、ビール自体も何かが根本的に違う。いったい何が違うのか?
その疑問につかれたら、毎日いてもたってもいられなくなってきた。気がつくと、イギリス行きのチケットを手にしていたというわけだ。
世界中でいちばんイギリスで飲まれるエールビールとは、いったい何なのか。そして僕がこよなく愛した空間、パブとは何なのか。その疑問を解くべく、今旅に出る。
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