新興都市の典型的ファミリーパブ「サフォーク・パンチ」

 

 ミルトン・キーンズ,という、イギリスではかなり特殊な町がある。

 ロンドンから北に1時間。真中のタウンセンターを中心に、碁盤目状に道路が張り巡らされ、タウンセンターには、一周に30分はかかる巨大ショッピングモール。湖までも人口、と計画され尽くしたこの町は、30年くらい前に、ロンドンからあるれ出る人口や工場地の確保のために建築された。日本で言えば、千葉ニュータウン、というところであろうか。

 当然、ここにあるパブは、新しいものばかり。新しい、と言ってももちろん、古く見せかけてはいるが、看板の金字がピカピカしていたりすると、僕としてはあまりいただけない。もちろん、都市建設前の、農村が広がっていた時代から残っているパブもあるにはあるが、数としては少ない。

 ここは実は僕が2年前まで駐在していた都市だ。当時も気に入ったパブを探すのに、苦労した。ただビールを飲むだけだったら、どこでもいいのだが、「イギリスのパブ」らしいパブを探すのに、人にいろいろ聞いたりした。何軒か見つけたのだが、今回訪ねたときは、どこだったか思い出すことができなかった。

 と言うわけで、今回は、開き直って、逆にミルトン・キーンズらしいパブを訪ねてやろう、と1度だけいったことのある「サフォーク・パンチ」へ車を走らせる。

 なぜそこにしたかというと、この町に多い、ファミリーパブの典型的なものであったし、オーナーの息子のウィルは当時僕がステイしていた家に、今間借りして住んでいる,という縁もあったからだ。

 タウンセンターから来るまで5分ほどの、ヒーランズというその場所の中ではただひとつしかないローカルパブである。

 駐車場は広く、子供の遊び場、ビアガーデン、プール(ビリヤードの方ですよ、念のため)、と、老若男女すべてのニーズが満たされる設備だ。店内は、部屋としてパブリック・バーなどの明確な区別があるわけではなく、この辺が、上品に食事をするところ、この辺が騒ぎながら飲むところ、となっているのみ。

 料理の注文は、カウンターで、自分が座ったテーブルナンバーを告げ、料理を注文すると、後でウエイターが持ってきてくれる、という大規模店ならではのシステムだった。

 ミルトン・キーンズには、このタイプのパブがごまんとある。市内の住民は、ロンドンなどに遠距離通勤していたり、地元で働く人たち、つまり家族で住んでいる人が多いので、いきおい、ローカルパブはこういったオールマイティなものとなる。

 土曜日のこの日も、家族連れあり、若者あり、おじちゃんの集まりあり、おばちゃんの集まりあり、若者あり、カップルあり、と、ヒーランズの住民のサンプルを見ているようだった。

 ウィルは、まだ20代前半の若者で、僕が行った日は、父親が休暇中で不在だったので、マネージャー代理として忙しく立ち働いていた。ウィルによると、ここはウィットブレッド社のタイドハウスとのこと。だから、当然同社の看板ビターであるボディントンが置いてあるほか、ロンドンプライドがあったのは、ウィットブレッド社が、フュラーズ社と取引があるということなのだろう。

「どう? 臨時マネージャーになった気分は?」

と聞くと、

「大変過ぎるよ。自分もバーマンとしてカウンターに立ちながら、ホールとか外にもいつも目を配らなくちゃいけない。バーマンをやっているだけでも大変なのに、マネージャーとなるともっとストレスフルだね」

 ウィルは、カウンターにいるときは、そんなことは匂わせず、にこやかに働いているが、実は、この仕事がそんなに好きではないのだという。

「時間は長いし、体もつらい。終わるのが遅いから、自分が遊べないしね」

 彼は、将来パブリカンになる気はない、と言っていた。他にやりたいことがあるのだそうだ。

 パブリカンの息子だからって、みんながみんなパブの仕事が好きになって、将来継ごうと思うわけではないんだな。たまたま稼業がそうだったから、とりあえず「腰掛け」にしている。そういうバーマンは、きっと彼だけではないのだろう。

 

Suffolk Punch

1 Landcliffe Drive

Heelands

Milton Keynes

01908−311166

 

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