賃貸か、分譲か、それが問題だ
〜白井夫婦杯・マンション購入ダービー〜
とくに結婚して2,3年経った夫婦なら、表題のような迷いを持つことだろう。これはそんな問いかけに、ない脳みそ(夫)と、大きなおなか(妻)を持って挑んだ夫婦の、愛と感動と優柔不断のノンフィクションストーリーである。仕事、予算、家族計画、「住」に対する考え方などは人それぞれなのだから、我々の考え方を勧めるつもりは毛頭ない。ただ、これから「買おう」と思っている人には、「こんなにドタバタでも買えちゃうんだ」と安心感を与えられると自負している。
駅を降りて、だらだらと南に伸びるゆるい坂を下る。目の前には、ここが住宅街であることを象徴するかのように、巨大団地が視界一杯に飛び込んでくる。坂を下りきって、団地内の商店街を抜けると、我が家はすぐそこだ。
僕には、この道を歩くのが楽しくてたまらない。もちろん、身体は疲れているし、早く家で妻の用意した温かい夕飯も食べたい。けれど、家までのこの10分くらいの道を歩くのは、ぜんぜん苦にならない。やっと手にした「我が家」までの道、ついつい、出会うまでの半年間を振り返ってしまう。
すべての出発点は、「ベランダ風呂」だった。順を追って話そう。
■今回も、お決まりのパターンでスタート
「白井夫婦杯」は、いつもこうだ。妻が無茶なスタートダッシュ(というよりフライング)、夫は妻が第4コーナーにさしかかるくらいまで、のんびり歩く。もしくは、まだパドックにいる。妻は第4コーナーで、パタッと止まり、時には後戻り、時には、草でも食べて一休み。もしくは厩舎へ帰る。夫は着実に第4コーナーまで来て、妻の首根っこを捕まえて、ゴール地点まで。ここで夫は疲れ果てているが、妻の一押しで、何とか一緒にゴールラインを通過。
結婚式が、まさにこういうパターンだった。式場情報をネットでやたら検索し張り切っていた妻が、準備半ばにしてリタイア、夫のヤル気があとから出てきたおかげで何とか最後は帳尻が合った感じ。
今回の「家探し」にしても、そうだ。
2003年に結婚した当初から「家を買いたい」が妻の口癖だった。「ゼッタイ、家買うよね、約束だよ」僕は浮かれた新婚気分で「うんうん」などと言っていたが、実はまったくその気なし。イギリスの会社に転職するつもりだったので、買うとしたら、帰国してからの「終の棲家」だろう。イギリス移住は妻も認めていたが、どこかで、やはりそれには抵抗があったのかもしれない。「買うんなら、やっぱりマンションだよね。私はそう決めてるんだ」今考えると、その言葉には軽口以上の重みがあった。
イギリス行きの資金を貯めるため、いったん妻の実家に住んだ。もとい、居候(パラサイト夫婦?)させていただいた。2004年の7月、近くに「オープンハウス」があると聞き、妻に首根っこを捕まれるようにして、冷やかしで見に行った。大ハシャギの妻に比べ、僕の脳は半分も動いていなかったと思う。
■「今なら100万円おトクです!」
9月に渡英し、就職活動をしたりしたが、何だかんだあって、移住をしないことにした。その時点で、実家に住まわせてもらってから半年間経っている。もともと「1年くらい」の約束だったから、あと半年くらいで、新たな巣を探していこうということになった。
妻は、まさに水を得た魚。ここぞとばかり新築マンションの広告を、目を皿のようにしてチェックし始め、西八王子駅徒歩8分を見つけるや否や、まずはお義母さんと下見に行く。ここで、僕と行くのではなく、僕の休みに都合を合わせるのももどかしく、先に行ってしまうあたりが、お得意のパターンだ。行った後は、お義母さんと二人して「ゼッタイあそこがいいよ〜」とステレオで連呼し出す毎日。
1週間後、まだ眠い週末の昼、根負けして見に行く。最初にこのマンションをプロデュースしたという竹中直人が出てくる大げさなVTRを見させられた時点で、けっこうげんなりしてきた。ホテルのロビーのような入口、託児室などの共有設備、駐車場完備、今考えると、どれも今の新築マンションの流行を押さえつつも、2400万円という破格の物件だった。そのときは、その値段が高いか低いかも分からず、僕は、線路際で、踏み切りと電車の音が窓をしめても聞こえてくるのが気に入らず、かたくなにNOと言った。すでにほとんどの住戸を売り切っており、完売したいがために、100万円の「インザルーム」無料家具の特典まで付いてきた。「特典」「おトク」という言葉に弱い妻は、数日後まで、「今なら100万円分の家具だよ!」と言い続けていた。やれやれ、TVショッピングの商品を買うんじゃないんだから、100万位で惑わされないで欲しいよ。
100万円といえば、結婚式場を探すときも、たまたま最初に見に行った場所で、「今なら100万円サービスです」と言われ、すぐそれに飛びついていたっけ・・・。説き伏せて、そこをあきらめさせるのに、どれだけ苦労したか。
そのモデルルームには、提携している生命保険会社の人がいて、その人に「我が家のライフプラン」を作ってもらった。ええと、今家を買うと、これくらいローンがのしかかるけど、それを払い終わったら、住居費はいらないし、年金時代に家賃を払い続けるのは辛そうだし・・・な〜んて、自分のライフプランを改めて眺めると、確かに、早いうちにローンを払い始めたほうがいい気がしてきた。お義母さんの口癖も「ローンは早く払い始めたほうがいいわよ〜」
しか〜し。当時の我が家の貯金は諸費用や引越し代は何とかなるが、ローンの頭金が捻出できない、という状態だった。しばらく安い賃貸に住んで、頭金としてもう2〜300万円くらい貯まるまでガマンしよう。いったんはそう決めて、二人の通勤に便利な荻窪近辺の家賃8万円台の物件を探し始めた。条件は、2DK、風呂追い炊きつき、徒歩10分以
内。
■あやうく郊外ではなく「公害」の家に
この「第一次賃貸志向期」からして、いろいろあったなぁ。まず、「杉並病事件」。どうせ借りるなら一軒家かなと色気をだして、上井草の一軒家を契約しそうになる。会社で「上井草に住むんですよ〜」などと浮かれていたら、「え? 杉並病は大丈夫なの?」。ゴミ処理場からの公害問題があったのだ。いろいろ調べた結果、もし子どもが喘息にでもなったら・・・とその物件はやめておくことにした。
次に、「申し込み金取り返し事件」。気を取り直して見に行った荻窪駅徒歩8分の2DK8万円の格安物件。条件はクリアしていたので、「ここにしよう」と申し込み金を払った。ところが妻が「やっぱり見た目が古すぎて友達も呼べないからイヤ」と言い出し、申し込み(契約ではない)を解除することに。某仲介業者にそれを告げると、「大家のところに申込金を返金してもらいにいってください」と言われ、妻は自ら大家のところまで申込金を取り返しに行く。ところがそこで冷たく門前払いを食らう。激怒した僕は仲介業者に電話、すぐに仲介業者の責任で、申込金(たしか10万円くらい)を振り込むように店長に怒鳴り込んだ。
■中古マンション? 賃貸でしばらくガマン?
そんなこんなで、安い賃貸はやっぱりよくないということが分かってきて、インターネットを再び検索し出すと、中古マンションだったら、1500万円など格安で買えそうな気がしてきた。
手初めにと、日野のライオンズマンションを見に行く。60uと狭いが1580万円也。「中古マンション」という線も悪くない、と思い始める。
でも、結局、自己資金のなさから、そこまで踏み切れない。マンション購入者である会社の先輩に相談すると、100%ローンでもまったく問題ない、と言われたが、当時勤めていた会社は安月給だったこともあって、決断できなかった。近々転職するつもりではいたが、それも「とらぬ狸の皮算用」である。
友人Mが不動産仲介業をしているのを思い出し、相談。彼は「賃貸は家賃をドブに捨てるようなもの。購入したほうがいい。資産にもなる。デベロッパーの利潤分が上乗せされている新築じゃなくて、数年たって、価格が落ち着くべきところに落ち着いた、3〜5年落ちの新中古を狙うべし」とのアドバイスを受ける。
だが、我々が住みたい条件で「新中古」を探すと、やはり3000万円以上はする。そんな額の住宅ローンを全額負う気には、当時の年収からはとてもなれなかった。
決めた。転職して収入が上がれば、高額のローンだって怖がらず組める。今はとりあえず安い賃貸でガマンしておいて、転職して年収があがり、自己資金が貯まるのを2〜5年待とう。それが「身の丈にあった住まい選び」ってもんだ。夫婦で何とかそういう結論を出し、第二次賃貸志向期へ。
我々は、というか、正確に言えば妻は倹約が大得意。第一次よりもさらに財布の紐をしめ、荻窪よりもっと西の駅で「家賃7万円台」の2Kにターゲットを移す。
■運命を変えた「ベランダ風呂」との出会い
2004年11月、我々は意気揚々と武蔵小金井駅に降りたった。目的は、インターネットで見つけた、なんと「家賃5万8000円」物件を見るため。徒歩8分で、2K、しかも風呂付。ひとつだけ気になったのは、間取り図によると、風呂がどう見てもベランダに位置していること。でも駅前の不動産屋の説明だと、周りは閑静な住宅街だし、風呂には追い炊きも付いているとのこと。当時、子どもをそろそろ作ろうと思っていた我々にとっては、それらは重要なことだった。
その物件に到着すると、先客がいた。女の子二人組だったが、そそくさと引き返してきたのも、今考えるともっともなのだが・・・。部屋は、築30年位だけあって、そりゃ、それなりだったが、4畳くらいの台所に、6畳が2部屋、という希望通りの間取り。さぁ、気になる風呂を見ようと、窓を開ける。安アパートにありがちな、奥行きが1メートルくらいの狭いベランダの上に、物置のような箱がのっかっていて、それが後付けの風呂なのだった。中は、大人一人がひざを曲げてやっと入れるくらいの浴槽と、シャワー。追い炊きなどついてないのが一目で分かった。
不思議なことに、ベランダに続く窓は、足元まである「掃き出し窓」ではなく、窓枠の下に30センチくらいの壁がちゃんとある、普通の窓。ということは、風呂に入るときには、30センチの壁をまたいでいったん外に出て、さらにその物置状の「ポータブル風呂」のような箱のドアを開けて入ることになる。入るまでも寒そうだが、壁に囲まれていない分、きっと風呂自体も相当寒いに違いない。「ビフォーアフター」的には、「壁をまたいで寒い外の風呂に入る家」となるのだろうか。
僕は、けっこう面白がり、「慣れれば何とかなるかも」と思った。何と言っても、この家賃なら、思いのほか早く資金が貯まるかもしれない。帰り道、僕はウキウキ気分で、「ねぇ、決めちゃう?」などとスキップせんばかりの勢いで歩く。「・・・」ところが、妻の歩みがどうも遅い。そのうちに涙をポロポロこぼし始めた。「赤ちゃんをあんなお風呂に入れるのは、想像できない。私たち、あんな家にしか、住めないの?」秋も深まった日の夕方、北風がぴゅうううっと二人の間をすり抜けていった。
その足で次に見にいった武蔵小金井駅徒歩14分の7万円は、風呂に追い炊きはなかったが、内装もフローリングなどがきれいだった。妻は「ここにしよう!!ここにしか住まない」。「ベランダ風呂ショック」の反動だ。その後、妻はインフルエンザにかかる。
■決断のとき
その数週間後、僕は一人で、立川駅徒歩10分7万円を見に行く。古く、ドアの立て付けが悪く、しかも線路際なので、窓を開けると、電車の音がうるさい。病床の妻に電話を入れると、ちょうど、電車が通りかかり、会話もよく聞こえない。妻は余計に元気がなくなったみたいだ。部屋を出て、廊下を戻っているとき、隣に建つ、分譲マンションらしい建物が目に入った。今僕がいる建物よりもしっかりしていて、何より、各戸の入口には、思い思いの飾り物があった。ここにとどまるのか、あちら側に思い切って渡るのか・・・。電車の音がごうごうと響く中、僕は決意した。
帰ると、妻に告げた。「やっぱり、分譲で行こう」。賃貸でいったん貯めるとしても、どうせ敷金や引越し代で70万円くらいかかる。それに、一度賃貸で落ち着いてしまうと、そのままずるずるいく、という心配もあった。何より・・・子どもを育てるのに、たとえ数年間でも、壁をまたいで風呂に入るとか、電車の音がうるさいとか、そういう思いはしたくなかった。そして、どうせ渡英はしないことに決めたのだから、次の引越しを最後にして、落ち着いて、子育てをしたいと思った。つまり・・・数年後ではなく、今から、ちゃんとした「家庭」を持ちたい。
もう一度、資金的なシミュレーションもしてみた。前述したとおり、賃貸に住んで5年くらいで、住宅ローン用の頭金300万円くらいができることになる。しかし、
@ 子どもが生まれるというのに、賃貸に住みながら、それだけの資金が貯まるか?
A その5年間の家賃約400万円がもったいない。
B 5年後の金利は上がっている可能性がある。
という理由から、今「待つ」のは得策ではないような気がした。
それでも、ローンの負担を負わない「安全策」をとる、という考え方もあるとは思う。でも、どんな生活をするにせよ、月に10万円近くの住居費がかかるのは同じ。ならば分譲のほうが同じ額を払うにしても、いい物件に住めるし、好きにリフォームできるというメリットもある。
【このとき考えた賃貸と分譲、それぞれのメリット、デメリット】
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メリット |
デメリット |
賃貸 |
・住宅ローンを負うプレッシャーと無縁 ・「どこに家を買いたいか」じっくり数年間かけて考えられる ・職場の場所が遠くなったり、その地が万が一住みづらかったら、気軽に引越しができる |
・家賃を「ドブに捨てている」という感覚が拭い去れない(実際には、『メリット』を得ている時点で相殺されているのだが) ・ずるずる資金が貯まらず、5年といわず、ずっと賃貸で行く危険性も ・数年後、金利が上がっていたら、頭金がたまっても、返済額が増える |
分譲 |
・金利が安い今購入して払い始めるのがベストのタイミング ・気持ち的に、住居について悩まなくてもよくなり、引越しの心配も要らない ・好きに釘が打てたり、リフォームできる ・年金生活の家賃が要らない |
・万が一引っ越さなくてはならなくなったときに、少し腰が思い(売却すればいいので、不可能ではないのだ ・「一生住む場所」を今すぐ決めなくてはならないこと |
■見に行くのは本当にピンと来た物件だけ
僕の本当の「家探し」は、ここからスタートしたのかもしれない。「もう、どっちでもいいや。どうでもよくなってきた」と言う、さっそくリタイア宣言をした妻を引っ張って、高幡不動1600万円、百草園2300万円など見に行く。だが、狭い、駅から遠い、など帯に短し、だった。
少し焦ってきた。よく理想の物件を見つけるまでには1年かかった、などという話も聞くが、我々は居候の身。そんな悠長なこと言ってられない。
分譲、賃貸を通して、ここまでいろんな物件を見てきて、分かったことがある。物件を調べるツールは、もっぱらインターネットだったが、その物件に関する情報で、少しでも気になることがあったときは、内見しても、結局はそれが気になり、決心できない。たとえば、広さとか間取りとかはいいんだけれど、駅からの距離が徒歩15分というときは、実際に内見しても、広さ、間取りは気に入るものの、見に行ったからといって駅からの距離が縮まるわけじゃない。決めた条件が「10分」である以上、その点が気になり、「毎日、これだけ歩くの、いやだな・・・」となってしまう。
だから、マイナス要因が一つもない物件しか見に行かないようにしよう。そう決めて、次に挙げるような「条件表」をもとに、各仲介業者に徹底的に探してもらった。
迷いがなくなると、決断が早くなる。こんな厳しい条件でも、業者はいくつも物件を探してくれたが、その9割は何かしら、「マイナス要素」があったため、見に行かなかった。
【各不動産屋に送った物件の条件】(○×は現在住んでいるNマンションの場合)
○○不動産様 一応、永住できそうな中古マンションを探しています。古くて永住できない場合は、ゆくゆくは買いかえる予定で、あと30年は家族4人(夫、妻、子ども2人+猫(犬も?))で住める物件です 《絶対条件》 《できれば、の希望》 《こだわらないもの》 |
※条件をまとめてみたのは、結果的にはすごくよかった。自分たちの暮らしにとって、何が大事かが見えてきたからだ。そりゃ、全部を満たす物件があればいちばんいい。だが、予算が限られている以上、何かをあきらめなくちゃいけない。僕たちが最後までこだわったのは、「広さ」「安さ」だった。あきらめたのは「新しさ」。でも、昭和56年の新耐震基準後にはした。中庸で妥協したのは「駅からの近さ」「都心からの近さ」。ここまで条件がはっきりすると、内見までして確かめたい物件の数は、かなり絞られてくる
■出会ってから10日間のスピード契約
明けて2006年1月末、3軒目に、現在住んでいるNマンションに出会った。ここは、別表にすべて○印をつけたように、思っていた条件すべてを満たす、この世で唯一の物件に見えた。ただし、希望価格からは450万円もオーバーしていた。
給与振込銀行だったA銀行には、前もって相談しておいたが、この物件をもとに再度相談を持ちかけると、この価格でも自分の安月給でも審査はおりるのではないかとのこと。これ以上価格を下げると、条件どおりの物件が出てこないことは、もう分かっていた。自分たちには、このくらいの「家」が必要なのだ。ローンは多少長く重くなるかもしれないけど、このくらいは少し背伸びをしないと、せっかく分譲に決意した意味がなくなってしまう。
最後の悪あがきとして、値下げのために動いた。ダメでも、ここにしようとは決めていたが、友人Mの助言により、値切れるものなら値切ってみようと思った。間違いなく、ここを買う意志があるので、このラインまで値段交渉に応じてほしいという趣旨の「買付証明書」を作り、担当の業者にそれを持って交渉に行ってもらった。売り出してから1ヶ月たった物件だったため、売主もそれに応じてくれた。なんと170万円の値下げが成立した。 気持ちが決まると、早い。初めてNマンションを見たのが1月末で、契約したのが2月上旬。その間約10日しかない。契約した日は、朝役所で実印登録をしてから出社し、仕事の後、売主側の仲介業者のところに夜8時に出向き、重要事項説明などを受け、登録したての実印を何度も押した。緊張とか逡巡は一切なく、ただただやっと決まってほっとした感じ。ここまで悩みぬけば、たとえ契約までこんなに短期間でも怖くはなかった。
■ローンが通らない!?
ここから、もう一波乱だけあった。それから1ヵ月の間に住宅ローン契約を結ばないと、手付金が失効してしまう。さっそく、それまで相談していたA銀行の人に報告すると、なんと、「その金額ですと、ひょっとしたら審査に通らないかも知れないです」などと言い出すではないか。ついこの間まで、「全然問題ない」と言っていたのに! 審査の結果が出るのに確か2週間など時間がかかるので、もし一度出してだめだったら、次のところに出す、というわけにもいかない。ゼッタイに審査が通る金融機関を探す必要があった。またもや友人Mの助言にしたがい、売主の仲介業者と提携しているB銀行に頼むことにした。提携ローンだったら、審査が通らないことはないそうだ。
というわけで、最後にヒヤッとしたこともあったが、無事に住宅ローン契約(金消契約)を結び、その後初めて夫婦揃って銀行に出向き、売主に残額の支払いを済ませた(最終決済)。その2日前に、リフォームの参考に、と先方にお願いして部屋を見させていただいたというのに、その日に鍵を受取ったのがうれしくて、その足でまた部屋を見に行ってしまった。自分で鍵を開けて部屋に入った瞬間が、忘れられない。
■後悔はゼロ
引っ越してから、自分で和室の壁を壊し、大工さんたちを手伝うなどして、リフォーム費用を安く抑え、13畳という広いリビングルームを手に入れた。これも、賃貸では実現しなかったことだ。他にも、「購入」にしたからこそ実現したことは山ほどある。「液晶じゃないので場所をとる32インチテレビ」「3人が座れるソファ」「本棚が2つ置ける書斎」「3つのラックに荷物がたっぷり入る納戸」「キッチンに立ちながらも会話ができるカウンターキッチン」「食事もできる広いベランダ」「英国パブ風に、好きにリフォームできる可能性」・・・。
それにしても・・・妻にしてみれば、辛い道のりだったと思う。最初はチラシや資料集めなどしてダッシュしていたが、途中で体調不良でリタイヤ、そして妊娠が発覚し、引っ越した当時はもう6ヶ月でお腹も大きかった。引っ越して落ち着いたと思ったらすぐに出産。フラフラした「住まい探し」はひょっとしたら胎教に悪かったのかもしれないが、結果的にわが子をゆったりと育てられることにもなったのだから、まあ許してもらおう。そうそう、賃貸なら、子どもが夜泣きすると隣近所に気を使っただろうが、ここではぜんぜん気にならないこともうれしい。
引っ越してからもしばらくは、マンションのチラシを見つけると、ついつい見入ってしまう。しかし、そのどれもが、どこかしら今のNマンションに劣るのだ。「やっぱり自分たちにはここしかなかった」という思いは、住み出してからもどんどん大きくなっていった。
今日も、お気に入りのマンションの、お気に入りのリビングルームの、お気に入りのソファに座って、子どもを抱っこしている。妻に「買ってホントによかったよな」と言うたびに「いったい何回言ったら気が済むの?」とあきれられる。でも、まだしばらくは言わせてくれ。男として、この決断ができてよかった、とこれから何度もまた思うだろうか
ら。
【おせっかいだが、同じように中古マンションを探している人にアドバイスを】
@設備のことを考えると、友人Mが言っていた通り、予算が許すなら3〜5年落ちの新中古がベスト。うちらのように築20年だと、すぐにお風呂のリフォームを検討しなくてはならなかったりして、何かと不便かも。
A管理費や修繕積立金の負担が少ないので、Nマンションのような大規模のマンションがオススメ。気持ち的にも大きなコミュニティの中にいる安心感がある。
B引っ越してくる日はあらかじめ管理事務所に言っていたほうがいい。うちらはそれを忘れていて、いきなり引越しのトラックが乗り込んできたので、管理事務所に露骨にいやな顔をされた。最初に悪い印象を持たれると、あとが苦労する
C売主が引っ越す前に、リフォームの計画を立てたかったので、部屋をもういちど見せてもらって寸法を測らせてもらった。そのときに、エアコンとかカーテンとか、細かい「残して欲しいもの」「置いていって欲しくないもの」を明確に打ち合わせることができて、お互いよかった。
D引っ越したらすぐ両隣と上下には挨拶したほうがいい。うちは、DIYの音が下に響いたり、塗れた洗濯もののしずくが落ちたりして、けっこうクレームをもらっているが、事前に挨拶してあったおかげで、険悪ムードにはなっていない。
(2006/6/5 UP)
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