Bass博物館訪問記
「ビター」と言えば、ペールエール。その生みの親であるBass社の本拠地は、
英国の灘ととでも言うべき醸造地帯。博物館は子どもでも十分楽しめる工夫がある一方で、
英国らしい地味さにあふれた素朴な空間でした


 英国のエールビールを語るとき、さけて通れないのがこのBass社。数々の醸造会社がひしめく日本の灘に例えられる「Burton‐on‐Trent」を今でも本拠地としている。(ロンドンの北西を電車や車で3時間くらい、マンチェスターの手前),ここはその名のとおり、トレント川を中心に栄えた小さな街であるが、ここから出る水質がビール醸造に適している。
硫酸カルシウムや硫酸マグネシウムなどのミネラル分を多く含む硬水だ。ホップの原産地であるウースター州Worcestershireに近かったことも関係している。(詳しくはイングリッシュエールについて参照)

 英国で通がいう「ビター」とは、ここで醸造されるペールエールを指す(エールビール全般を指すこともあるが)ほど、英国人にはなじみがあるこのスタイルのビール。生みの親であるBass社を訪ねなければ、話にならないというわけで、バス工場を訪れ、博物館をつぶさに見学した。以下、いちばん下の「SITE PLAN」のA〜の記号と照らし合わせながら見てください。

 バートン・オン・トレントの駅が近づくと、左手に、山のように詰まれた樽が見えてきた。「あれがバスだろうか」と思っているうちに電車は駅に滑り込んだ。 駅の構内の地図でバス博物館の場所を調べるとそんなに遠くない。

 よく晴れた、土曜の午後。 駅を出ると、そこはちょっと高台になって、目の前には、何らかの工場が見える。 駅前の道を下り、道沿いにしばらく歩く。

 大きな街ではない。のに、あちこちに工場が見え、いかにもビールで栄えた町という印象を受ける。

 道を下ってすぐの左手に、バスの表札が見える。ここが本工場に違いない。 と思ったところへ、右手にまたもや大きな建物がバスのあの赤い三角マークをしょっている。 どうやら、工場は道を挟んで両側にあるようだ。 その工場の角を左に折れてまっすぐ行けば、バスの博物館はすぐのはず。 道沿いを歩いていると、どうやら、左手側すべてがバスの工場らしい。いつまで続くのか。自分がガリバーのようにちぢんでしまったような、妙な感覚に襲われる。

 突き当たりにたどり着いた。もう角を曲がれば、博物館である。 その曲がり角までバスは続く。 写真でも撮ろう、と思ったが、ファインダーにとても収まりきらない。 角を曲がり、いよいよバスの博物館へ。(図A)

 博物館自体は、レンガ作りのこじんまりと長細い建物だった。 中に入るとなかなか新しい。受付でお金を払い、資料を頂く。気の良い人だ。入場料には、ハーフパイント分のビールもしくはコーラなどの飲み物が付いてくるらしい。後でお味見と行こう。 受付を見渡してから、おもむろに中に入る...

  ちょっとした通路を抜け、ドアをくぐると突然、怪しげな人が私を見下ろしている。ちょっとビビったがよく見ると人形だ。ほっ。 しかし何だそりゃと思ってよく見るとちゃんと説明があった。 ビールに必要な、ホップは朝顔の蔓のように、竿に沿って伸びる。収穫は上から行なうので、竹馬のようなものに乗らなければならないらしい。なるほどね。 (図B)
 
 中は窓から入る明かりでかなり明るい(おかげで写真撮るのが苦労したよ、光っちゃって)。 中にはあまり人がいなく、静かだった。のもつかの間、どやどやとビール腹の親父達が入ってくる。飲んでるんだろうな、普段からたっぷり。 その後続いて、家族連れも入ってくる。なかなか人気みたいだな。それでも、土曜日の午後としては「こんなんで採算とれるのか?」と思うくらい簡素で、写真を撮るのに全く苦労しなかった。

 博物館の中は、主に鋳造過程について詳しく展示されていて、それにまつわる機械なども多く展示されていた。ボタンを押すと、動いたりもする。そのたびに「グイ〜ン」なんて音が響き渡り,静かだとちょっとびびるよ...ビデオの説明なんかもあって、子供にもわかりやすいかも。
 
 第1の部屋から次の部屋に移る。(図C)まだまだ醸造過程は続く。それに加えて、バートンでのビール鋳造の歴史や、水についての説明を見ることができる。

  バートンでは一般的にビールの鋳造が古くから盛んで、工場はバス一軒ではなかったらしい。一時はその数26にもなったと言うから驚きだ。こんな小さな町なのに。 鋳造過程の終わりまで来て、面白い小話など読んでいるうちに、博物館の出口まで来てしまった。

  え? これで終わり、とちょっとがっかりしつつも、外に出る。んじゃ、暑いし、ビールでも、と思って、パブのありそうな方向へ。

  と、何か臭う。う、馬だ!馬がいる! (図D)バスの博物館では、シャーホース(州馬)や、なぜか、鶏、やぎなどを飼っていて、子供達がたむろしている。馬は、昔から、交通に使われていたのでそれに由来しているらしい。

 これはあとから分かったのだが、この馬がいる建物が第2の展示室だった。だがそうとは気づかず、行けなかった。最初にもらったSITE PLANをよく見なかったのが悪いと言えば悪いのだが、博物館なら「ROUTE」の表示や番号などがもっとあってもよさそうだ。そういったものが全然ないのがいかにも英国らしい。

  というわけで第2の展示室には行けず、外に出てしまった。広々としたスペースには、かわいらしい緑の古いビンテージの運搬用の車が並んでいる。(図E)まだ使われているような雰囲気だ。 その向こうに見える建物は...違う博物館らしい。んじゃま、そっちも覗くとしましょう。

  モダンな見かけの建物(図F)に入ると、そこは、どうやら、バス自体の歴史や交通手段の歴史についての展示らしかった。 三階建ての建物の1階は、子供向けにいろんな展示がしてあり、衣装などを着て撮影もしてくれるらしい。奥には、水をくみ上げるための大型の機械式ポンプもある。スイッチを押すと大きな音を立てて動き出す。 グイ〜ン。あいかわらずよく響く・・・
 
 2階へあがると、バスの歴史が。かなりの量の情報で読み応えがありそうだったが、時間が無かったため、さらりと流して3階へ。 3階は、交通期間の歴史らしい。 馬車の様子や、トレント川を利用した運河の様子も見られる。

 面白いのは、バスはバス独自の鉄道を所有していたことだ。当時から、一般の鉄道も走っていたが、それ以外に、市内の各工場を回るための路線も在ったらしい。 大型の模型が展示してあり、これまたスイッチを押すと小さな鉄道が走る。面白すぎる。 適当に写真を取って外に出る。

 なんだ、そんなにがっかりすることなかったね。結構見るところあるじゃない。 さあ!お味見の時間だな。 建物を出て、左手にあるバーに入る。 (図G)

 結婚式の披露宴(イギリスではレセプションと言う)が催されていて、あちこちに花吹雪が散っていた。うーん、ロマンチックとは言いがたいのでは…? ひょっとしたら醸造関係者かも。社内割引?

 バーで、ハーフパイントのバスエールを頼んで、外のベンチに座る。天気が良い。軽くヘッド(泡の部分)が付いている。一口すする。 なかなかマイルドで喉越しが良いが、特有の苦味が口に広がる。 側には、子供用にジャングルジムなどあって(図H)、親子連れにもちょうど良いだろうなあ。 実際、子供が沢山来ていて、馬にえさなど与えていたし。

  かなり大きな博物館だったと言える。昔のてづくり感覚の醸造法や醸造過程そのものについてもよく分かったし。1日十分費やせるだろう。一部を見逃していたのは本当に残念。

 それにしても博物館の周りにあった工場たち…一体どこまで続いていたのだろう。航空写真で見てみたい。

外から見た博物館(図A)

博物館の周りは工場で囲まれている

最初に目につく展示物。柵に絡ませたホップを竹馬のようなものにのって収穫した(図B)

ここで大麦を発芽させる。大麦をしきつめ床下暖房のように下から温める

できたウォートを発酵させるときの容器、ユニオン・セット。酵母は再利用される

2次発酵を助けるアイシングラスとプライミングシュガー

典型的な看板がいくつか展示されていた

外には昔運搬に使っていた車が。今でも動く
※写真はクリックすれば拡大します

博物館でもらった「SITE PLAN」 赤字のA〜は、本文中で触れている部分


■一口メモ=Bass社の概要■ 
 1777年にビール工場として創業以来、レジャー施設に手を広げ、いまやビールの醸造権をベルギーのインターブリューInterbrew社に売却。バス社は世界一大規模のホテルチェーン(Inter-Continental,Holiday Innなど)やパブチェーンやレストランチェーン(All BarOne,Tobyなど)を展開している。

●現地取材・撮影=中山夏美(http://dive.to/underwater
 途中の部分、中山さんが書いた手記を引用させていただきました
 この場を借りてお礼を申し上げます

●バス博物館についての最新情報はhttp://www.bass-museum.com/を参照してください。ツアーは平日だけのものが多いようです。

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