さてパブの構造・間取りに関するお話。私の働くパブは180年の歴史(第2話参照)はあるものの、Terryさんの書籍“パブは愉しい”にあるような、伝統的、歴史的建物とは程遠い。どちらかというと、モダンパブといった方が正しいかもしれない。バーカウンターは一つしかなく、“パブリックバー”“ラウンジバー”を仕切る壁もなく出入り口も一つしかない。残念ながら、Terryさんが好むような「昔の形」はあまり存在せず、あえていうならば、カウンター後部に位置する”Snug”(個室)とよばれているエリアが唯一、昔の形を残す構造になっている。この場所、元々はセラー(貯酒室)であった。薄暗く特にカップルが好んで利用しているが、実はその昔は遺体安置所として利用されて、今では幽霊たちと遭遇できるかもしれないいわく付きの場所である。
1階のみがパブとして利用されていて、室内は約75席、屋外正面にはベンチを含めて50席くらいの、比較的小さな規模のパブである。ただ、週末は鮨詰め状態の立ち客を含めると、250人くらいは収容できる。2階が厨房、スタッフの控え室、ストックルーム及びオフィス、3階はオーナー夫妻の住居になっている。セラーは2階屋外の裏庭にある車庫を改造して使っている。
このパブで働く上で、一番大変なこと。ここまで注意深く読んでいただけた方ならお分かりだと思う。食事を運ぶ時や、樽をチェンジする時は、2階まで15段の階段を一気に駆け上がっていかなければならないのだ。実際に回数を数えた事はないが、平日には少なくとも50往復、日曜日にはその倍で、これが結構ハードな運動なのである。よって日曜日には、くたくたになる。本当に疲れ果てる。そんなときいつも思うのは、よく日本の居酒屋等にある、食事を運ぶだけの小さなエレベーター、あれがあればなあと思わずにはいられない。明日の日曜日、オーナーにエレベーターの設置を頼んでみようかと真剣に考えている。
ブライトンにも「昔の形」を残す、歴史のあるパブが幾つか存在する。私のパブはモダンパブだが、建物自体は180年前のもので、木の床や暖炉、正面ドア、窓枠などは「昔の形」をそのまま利用していて、其所此処に昔の面影を残しながらモダンとうまく調和していると思う。とても心地よくて、いつも常連客に溢れる、私自慢のパブである。
Comment(Terry)
おそらく建てた当初は平屋だったのが、どんどん建て増しされていったのでしょう。1830年代に、部屋が細分化された増えたヴィクトリアンパブが増えましたが、それは都会の話だったので、ここではその影響はなかったのかもしれません。しかし・・・エレベーターの話、ぜひオーナーにしてみてください!!